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英国:難民申請「略式」制度の下で、切り捨てられる女性たち

略式手続きは、複雑な事案に対応できない

(ロンドン)-本日発表された報告書の中でヒューマン・ライツ・ウォッチは、 英国の難民「拘禁・略式」認定制度は、母国に戻るとひどい人権侵害に遭う恐れのある女性たちの難民申請を公正に審査できる制度とはいえない、と述べた。

本報告書「イギリスの難民認定・略式手続きの実態:女性庇護希望者の拘禁と申請却下」(69ページ)では、複雑な事情の下で難民としての庇護を求めている女性たちが、もっと単純な事案を取り扱うために導入された略式手続きでの審理にまわされている実態を取りまとめている。女性たちは、申請の間、拘禁される---行政側の便宜が拘禁する最大の理由である。そして、審理のための準備時間はほとんど与えられないうえに、申請が却下された場合も、わずか数日間しか不服申し立てのための期間を与えられていない。多くの女性難民申請の事案には、性暴力、女性性器切除、人身売買、家庭内暴力といった、微妙で困難な事情があるにもかかわらず、弁護士やその他の代理人が、庇護を求める女性たちと十分な信頼関係を築く時間すら与えられていないのが現状である。そのため、弁護士などの代理人が申請内容を当局に説明したり、その証明に必要な医学的証拠などを入手するのも困難なのが実態だ。

「難民「拘禁略式」認定制度は、基本的な公正基準さえ満たしていない」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチの女性の権利調査員ハゥリ・ファン・ヒューリックは述べた。「この略式手続きは、レイプや奴隷問題、名誉殺人の脅威といった複雑な事案にまったく対応できない。それにもにもかかわらず、多くのこうした事案が、難民「収容・略式」認定制度にまわされている。」

本報告書は、2009年にイギリスのヤールズウッド難民移送センターなどで行われた調査に基づいている。ヒューマン・ライツ・ウォッチは50件の聞き取り調査を行った。聞き取り対象は、全部又は一部「拘禁略式」手続きで審理された女性たちや、弁護士、関連NGOの代表ら、そして国境庁職員などである。

「もし私が帰国したら、夫と家族は私を殺すわ」と、深刻な家庭内暴力を主張したにもかかわらず、略式制度で申請を却下されたパキスタン出身のファティマ・Hは言う。ファティマがヒューマン・ライツ・ウォッチの聞き取りに応じたのは、2009年4月24日。「もしこの世界に少しばかりの人間性、あなた方はそれを人権と呼ぶのかもしれないけど、そういったものがあるのなら、どうぞ私を彼らから守って。もしそれができないのなら、せめて、この世に何も持たず、安心して暮せる場所もない人間の権利として死なせてほしい。」

本報告書は、難民審理手続きのガイドラインの内容があいまいであり、英国国境局のスタッフがいずれの手続きに振り分けるかを適切に決定できていない現状を詳細に報告。同局はこのガイドラインを基に、女性たちの複雑な難民申請についても、略式手続きで十分に対応し得るのか否かを、ただ漠然と判断しているのが実態だ。また同局にはジェンダー関連の申請に関する考え方を示した独自のガイドラインがあるものの、局員たちには、男性の難民申請にはない女性難民に特有の問題に関する根本的な理解が欠けているのが実情だ。

ひとたび「略式」手続きに送られると、複雑な申請理由を抱えた女性たちに、審理のために準備をする時間はほとんど残されていない。医療専門家などの専門家の意見を聞く時間や、申請内容を確実に証明する証拠を集める時間もないに等しい。これは特に、レイプや虐待に関わる事案で顕著である。女性たちは、自らの体験に対してトラウマがあったり、難民手続き自体を恐れていたり、単に事実を語るのを恥じていることがある。そのため、関連情報が後々になってやっと出てくるか、あるいは全く出てこないことも多い。

女性を拘禁(収容)することは、問題を一層悪化させる。中には、女性の通訳、担当者、医療スタッフがいない拘禁施設もある。

「国連や多くの外国人支援団体、英国議会はもちろん、政府内の査定チームでさえ、内務省に対し、『略式』は女性切り捨て制度だと昔から提言してきた」と、前出のファン・ヒューリックは述べる。「それでも、国境局は問題を野放しにしている。つまり、国境局にとっては、女性の難民保護より、女性の強制送還のほうが優先課題であるということだ」

2008年、当初「拘禁略式」制度に振り分けられた女性の25%が、最終的には通常の申請手続きに移送された。このことから、同制度が適切に機能していると英国政府は主張している。しかし、弁護士やNGO団体は、多くの場合、略式手続きから通常手続きに移送されたのは、国境局職員が事案を再検討した結果ではなく、NGOや弁護士など外部者の介入の賜物だった、とヒューマン・ライツ・ウォッチに語った。通常手続きの下では、難民認定申請中、申請者は拘禁されない。また、立証のための準備期間も、数日ではなく数週間与えられている。

「拘禁略式」制度は2003年に導入され、2005年には女性にも適用可能となった。現在、全申請のうち90%を6カ月以内に「解決」することが、政府の優先課題となっており、この「拘禁略式」制度も重視されている。「拘禁略式」制度の下では、申請には2週間で結論を出すことが目標とされており、その後国境局が申請者を迅速に管理下に移せるよう、申請者をその間拘禁する。

現在までに2055人の女性が「略式」手続きに振り分けられており、その全員がヤールズウッド難民移送センターに収容されていた。このうち96%が、一回目の審理で申請を却下された。政府の2008年及び2009年前半期の統計によると、不服申立も91%が棄却されている。

英国政府が、国境を管理する権利を有し、かつ、理由のない庇護申請を行なった人びとを英国から送還する権利を有することは論を待たない。その一方で、英国政府は、難民条約に規定された迫害からの保護が実際に必要な人びとに対しては、難民の地位を認める義務も有する。この義務の履行を確保するため、庇護希望者は、公正かつ十分な難民認定審査を受ける権利を有する。

英国内務省は、複雑な庇護申請理由がある人びとを略式手続きに振り分けないため、より厳密な手続きを早急に導入する必要がある。ヒューマン・ライツ・ウォッチが提言したのは以下の点である。

  • 性暴力や家庭内暴力などの煩雑なジェンダー関連の迫害が申請理由となっている事案は、略式手続きに振り分けるのは適切でない、とガイドラインに明記すること。
  • 略式手続きに振り分ける基準を明らかにすること。その際、申請上「迅速な」決定をできる理由も明記すること。

聞き取り調査に応じたシエラレオネ出身の女性ローラ・Aは、「拘禁略式」に送られたが、その後内務省によって同手続きからはずされた。最終的には、彼女は複数のジェンダー迫害から逃れてきたとして、難民として認定された。ローラは、最初、略式手続きに振り分けられたときの経験と申請を却下されたときのことを思い出してこう語った。「私は不とう不屈なのよ。生きるためにずっと戦ってきたんだもの。でもね、『今、あなたの人生について話してもらったけれど、それはぜんぶ作り話だな』って言われた時は、生きた心地がしなかったわ。」

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