Skip to main content
寄付をする

米国:収容所で、性暴力にさらされる外国人たち

米国政府は、速やかな保護強化と改革を

(ワシントンDC)-性暴力の防止と法の正義(加害者の法の裁き)をしっかり実現するため、米国政府は拘禁下の外国人の保護を強化する必要がある、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日公表した報告書で述べた。

報告書「拘禁下の危険:米国の移民収容所で頻発する性暴力とセクハラ」(全24ページ)は、性暴力事件と被害の訴えについての調査報告。また、この問題に対処するため、米国移民税関執行局(Immigration and Customs Enforcement agency, ICE)が行なった提案についても論じている。拘禁システム全体に対する監察を強化するとともに説明責任を確保するため、同局は速やかに改善措置を取るべきである、とヒューマン・ライツ・ウォッチは強調している。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの女性の権利調査員ミーガン・ロードは「ICEは、被拘禁者を性暴力から守るために、より強力な措置が必要であることをようやく認めた。早急に遅れを取り戻す必要がある」 と語る。「ICEは、新しい規則を導入するとともに、その規則が数百の施設からなる拘禁システム全体で順守されるよう、規則に実効力を持たせる必要がある。」

あわせて、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ICE の対応が基準改正に留まるのであれば、限られた意味しかない、と懸念を表明。ICEは、法的拘束力のある規則を定めることを拒否しているからだ。

テキサス州にあるティー・ドン・ヒュット(T. Don Hutto)外国人収容所では、5月、請負業者コレクションズ・コーポレーション・オブ・アメリカ(Corrections Corporation of America)で雇われていたある看守が、数名の被拘禁者に性暴力を加えていた疑惑が浮上。以来 、ICEは多くの政策変更を表明してきた。その看守は、被拘禁者たちの釈放の際、女性たちが空港やバスセンターに移送されるのに乗じて痴漢行為を働いたとの疑いがもたれており、2010年8月19日、公務員暴行・違法監禁容疑で逮捕された。

ICEは、対応策として、看守が異性の被拘禁者を検査することを禁止するとともに、看守が異性の被拘禁者の移送に携わることを制約するなどの予防措置をとると表明。ICEは、レイプ事件被害者に対する義務的医療処置の改善、そして、虐待事件についてのデータ収集手続きの改善などを内容とする、性暴行に関する拘禁基準の改定を行なおうとしている。

しかし、被拘禁者に対する必要性のない身体検査を減らすとともに、また、虐待事件の被害者が刑事事件捜査で警察等へ協力できるよう米国滞在を認めるビザがあることを被害者に周知徹底するためには、更なる政策変更が必要である、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

「法的拘束のある拘禁基準を定めることは、多数の人権侵害が起きている実態を変えるためにとても重要である」と前出のロードは語る。「ICEがこの点に消極的なのは、拘禁施設そして施設内で弱い立場におかれた被拘禁者たちに、誤ったメッセージを伝えることとなる。」

性暴力・虐待・嫌がらせが外国人収容施設で頻繁に起きていることは、一般的にはあまり知られていない。米司法統計局(Bureau of Justice Statistics)は、ICE 運営施設で発生した事件やICE専用施設内で発生した事件などのデータの一部を収集している。しかしそのデータには、ICEが間借りしている州刑務所や郡刑務所に収容されている外国人に対する虐待の数は含まれていない。

刑務所内レイプ根絶政府委員会(National Prison Rape Elimination Commission、米国議会がそのマンデートを決定)は、2009年6月報告書のなかで、拘禁中の外国人たちが人権侵害を受けても、職員の行動規範についての情報の欠如や、強制送還の権限のある機関からの虐待の実態を申告することに対する恐怖など、様々な困難がありなかなか被害を申告できないと指摘。

「人権侵害の被害を受けた人びとは大抵強制送還されてしまう。よって、私たちにもたらされた事件の情報は氷山の一角に過ぎないと見られる」と前出のロードは語る。「拘禁下の外国人たちが受けた人権侵害の被害届をしっかり吸い上げるシステムをICEがつくるとともに、問題の全様を明らかにすることが、緊急に求められている。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチの本報告書は、政府およびNGOが行なった調査研究やメディア報道、訴訟記録の調査を基本にして、2003年のICE設立以来におきた拘禁中の外国人に対する性暴行・虐待・嫌がらせの事件と証言を集めた報告書。

テキサス州にあるイサベル港サービス・プロセス・センター(Port Isabel Service Processing Center)では、2008年、拘禁中の女性5名が、看守ロバート・ルイス・ロヤ(Robert Luis Loya)に襲われた。ロヤ看守は、拘禁センター内の病院に入院中の彼女たちの各部屋に侵入。ロヤ看守は、「医者の指示だ」として彼女たちに服を脱ぐよう命令。被害者たちの性器を触った。

2007年のある事件では、人身売買の被害者の女性たちが、ICEが間借り契約を結んでいるフロリダの刑務所で性暴行の被害にあった。犯罪容疑で拘禁中の女性たちが、同じ区域に収容されていた複数の人身売買の被害者女性たちに鎮静剤を飲ませ、体を動かせなくなった女性たちを襲ったのだ。

本報告書の主な提言・勧告

米国国土安全保障省(Department of Homeland Security)への提言・勧告

  • あらゆる種類の外国人収容施設で適用される法的拘束力のある拘禁基準を策定すること
  • 刑務所内レイプ根絶法コーディネーターを任命すること
  • 被害届の出された性暴行事件について、その情報を公開すること

米国移民税関執行局(ICE)への提言・勧告

  • 性暴力の被害申立があれば、徹底的な調査を確実に行うこと
  • 拘禁基準が順守されているか否かについての監視を強化すること
  • ICEの権限で拘禁されている外国人が収容されている全ての施設で、性暴力や人権侵害の防止と対応に関する拘禁基準がしっかり履行されるようにすること
  • 性暴力被害を受けた人びとに対する支援サービスを提供している地域のグループが拘禁施設内にアクセスしやすくするよう、各施設に義務付けること
  • 釈放や警察等協力のための米国在留ビザの取得などの救済措置を被害者たちが確実に受けられるようするため、手続きを標準化すること
  • 被拘禁者に身体検査を行なうのは、違反行為が行なわれたという合理的な疑いがある場合に限る、と拘禁施設に義務付けること
  • 被拘禁者たちに対し、性暴力、人権侵害、嫌がらせからの予防・保護に関する権利を周知徹底すること

司法省への提言・勧告

  • 刑務所内レイプ根絶政府委員会の勧告に基づいた規則を、遅滞なく発令すること
  • 外国人収容施設で過去におきた性暴力事件と人権侵害事件を再検討し、過去いかなる刑事訴追手続きが取られたのかを調査して、手続きと訴追率の改善につなげること

米国連邦議会への提案・勧告

  • 拘禁下でおきた性暴力事件・虐待事件・嫌がらせに関するICEの記録を公開するよう求めること
  • 拘禁環境に関する基準を定めた法律を採択すること

皆様のあたたかなご支援で、世界各地の人権を守る活動を続けることができます。

テーマ