(ニューヨーク)-石原慎太郎・東京都知事は、レズビアンとゲイの人びとを中傷した発言を直ちに撤回するべきである、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。
2010年12月初旬、石原知事は2度にわたり、メディアにおける同性愛者の扱いを批判するとともに、レズビアンとゲイの人びとは「どこか足りない感じ」がし、遺伝的に問題があると発言した。知事のこの発言は、日本の人権週間(12月4日~10日)の直前及びその最中に行われ、地方や全国のメディアを通じて報道され、インターネット上でも広く発信された。
ヒューマン・ライツ・ウォッチのレズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー(LGBT)人権プログラムの調査員ディピカ・ナットは「日本は同性愛行為を刑事処罰の対象とはしていないものの、LGBTの人びとは、家庭内や職場、その他の社会的、職業的な環境で日々差別と偏見にさらされている」と語る。「石原知事の発言はレズビアンやゲイの人びとへの偏見を増大させ、既に社会の片隅に追いやられている人びとに対する差別を悪化させる可能性がある。」
石原知事の最初の発言は、昨年12月3日、漫画・アニメ産業への規制を目的として提出された東京都青少年健全育成条例改正案に関する意見を述べた際のことであった(同案はその後12月15日に可決)。
石原知事は「[この条例は]子どもだけじゃなくて、テレビなんかにも同性愛者が平気で出るでしょ。日本は野放図になり過ぎている」と発言。この発言は、毎日新聞の紙面及びウェブで報道された。
その後12月7日に、この発言の真意を問う記者の質問に答えて、石原知事は同性愛者について「どこかやっぱり足りない感じがする。遺伝とかのせいでしょう。マイノリティーで気の毒ですよ」と述べた。また、サンフランシスコでゲイ・パレードを見た時のことについて「ゲイのパレードを見ましたけど、見てて本当に気の毒だと思った。男のペア、女のペアあるけど、どこかやっぱり足りない感じがする」と述べた。これらの発言は複数の新聞やインターネットメディアでも取り上げられた。
2000年、東京に拠点を置くLGBTの権利擁護団体 OCCUR(NPO法人アカー)が同性愛者差別裁判に勝訴した後、石原知事は、トランスジェンダー及び同性愛者も対象とした人権の保護・推進に関する東京都人権施策推進指針を、東京都に初めて導入。同指針は、レズビアン・ゲイ・トランスジェンダーの人びとの人権をも対象とする日本における数少ない施策の一つである。
「石原知事は東京都のガイドラインに誠意を持って取り組み、社会の片隅に追いやられた全ての人びとに対する偏見と差別を是正するために真摯な努力をするべきである」と前出のナットは指摘する。「レズビアン、ゲイ、トランスジェンダーの人びとも、日本に暮らす全ての人と同じように尊重され、人権を享受できるべきである。」
日本国憲法は平等権を保障しており、あらゆる差別も禁止していると解釈されている。しかしながら、公営住宅法第23条第1項のように、現行法は事実上、同性のカップルに対して公営住宅への入居を禁止している。
日本政府は、市民的及び政治的権利に関する国際規約(国際人権B規約:ICCPR)締約国であり、同規約は差別を包括的に禁止している。各国のICCPR順守状況を監視する国連の自由権規約委員会は、2008年の第94回会期で、日本はICCPR規約上の責務を果たすために、公営住宅法などの差別的な法律を改正し、差別禁止の事由に性的指向を含めるよう勧告した。しかし、LGBTやその他のマイノリティが直面している様々な差別に対処するための包括的な差別禁止法の必要性が明確であるにも拘らず、日本政府はいまだその措置を何らとっていない。
「全都民の人権をまもり、その福祉を実現する責務をおっている石原知事が、レズビアンやゲイに対し、他の人びとよりも劣っているかのように位置づけた発言に、重大な懸念を抱いている。」前出のナットはこう述べる。「公職に就く者が特定のグループに対して軽蔑的な見方を表明することは、それらの人びとが尊厳を持って生きることを阻害する。自らが加えたダメージをしっかりと修復するのは知事の責任である。」