(ナイロビ)-2013年4月9日に就任式を迎えたウフル・ケニヤッタ大統領とウィリアム・ルト副大統領は、国際刑事裁判所(ICC)への最大限の協力を確保しなければならない、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。新政権はまた、ケニア憲法にある基本的人権に関する条項を尊重し遵守すべきだ。
「ケニヤッタ氏とルト氏は、自身のICC裁判に出廷するという約束を守るべきである」とヒューマン・ライツ・ウォッチ国際司法上級顧問エリザベス・イベンソンは指摘する。「ケニヤッタ氏はまた、ICC加盟国の大統領として、自国政府が負う協力義務を果たすと共に、ICCが必要とする支援を提供しなければならない。ケニアで過去に起きた選挙後暴力の被害者とその家族は、法の裁きを既に5年以上も待っている。」
ケニヤッタ氏とルト氏及び、ルト氏の共犯である元ラジオ司会者ジョシュア・アラップ・サング氏は、2007年から2008年にかけてケニアで選挙関連暴力が発生した際、人道に対する罪を犯した或いは人道に対する罪を行うよう命令した容疑で、ICCで裁判にかけられる。ケニヤッタ氏とルト氏は自らの裁判に関し、ICCでの訴訟手続きに自主的に出廷してきた。ケニアは2005年にICC加盟国となっており、同裁判所に協力する義務がある。
ICCでの裁判における証人保護は重大な懸念事項である。ICC検察官は、ケニアに関する裁判での証人とその家族への妨害は「前例がない」規模であると述べた。以前ケニヤッタ氏の共犯容疑者だったフランシス・ムタウラ氏への容疑が3月に取り下げられた理由のひとつが、証人が恐怖のあまり名乗り出なかったことであると、同検察官は示唆している。他の要因として挙げられるのは、政府からの協力の欠如と、重要証人の1人が収賄を認め、証言の一部を撤回したことなどだ。
「検察側であれ被告側であれ、証人が身の安全を保証され報復を恐れることなく証言できるということが、公正で信頼に足る裁判に必要不可欠な要素だ」と前出のイベンソンは指摘する。「新政府は、法の正義実現に向けた取り組みに力を貸す人びとの安全確保を公約することで、まん延する恐怖に終止符を打たなければならない。」
3月4日の大統領選挙の結果を受けた勝利演説で、ケニヤッタ氏は自らの政権が国際機関への義務を果たすと述べた。ケニア政府はこれまで、ICCが国内で一定の活動を行うことは認めてきた。しかしICC検察官は、同政府が公文書閲覧に関する支援要請に対して引き延ばしを行うと共に、警察幹部への事情聴取に関するこう着状態打開に向けた、裁判官指名の働きかけも行っていないと示唆。新政権はそのような妨害行為をなくすよう、全力を尽くすべきだ。
ヒューマン・ライツ・ウォッチはまた、2010年成立の同国憲法に盛り込まれている基本的人権に関する規定を新政権が尊重し、必要な改革を進展させるよう求めた。今回の選挙前にヒューマン・ライツ・ウォッチは、改革政策の実施には漏れがあり、それは特に警察部隊において顕著であることを明らかにした。3月4日の選挙当日とその前後において、市民社会団体への脅迫は増加している。
「憲法の権利章典を尊重し、市民社会・メディア・独立した意見に開かれたスペースを守ることが、ケニア政府にとって必要不可欠である」とイベンソンは指摘した。「ケニア当局は、国内法に違反する市民社会活動家・メディア・ICC裁判での証人に対する脅迫を捜査起訴することを、確保しなければならない。」
2007年から2008年にかけてケニアで起きた選挙関連暴力に関し、ケニア当局は責任者を裁判にかけなかった。その後ICC検察官は捜査を開始。ルト氏とサング氏の裁判は、今年5月下旬開始が予定され、ケニヤッタ氏の裁判は7月の開始が予定されている。ムタウラ氏への起訴が取り下げられた後、ケニヤッタ氏は裁判官に自身への起訴も取り下げるよう申し立てたが、それについての判断はまだ出ていない。
就任式に先立ちスーダンのある新聞は、オマル・アル・バシール大統領が式に出席する計画であると伝えた。バシール大統領が招待されているかどうかについては、ケニア政府当局者の間でも矛盾した発言がなされた。バシール大統領は、スーダンのダルフール地方におけるジェノサイド罪・人道に対する罪・戦争犯罪の各容疑でICCから指名手配されている。あるケニア政府広報官は、バシール大統領が式に出席しても、現職国家元首であるためケニア政府は逮捕できないと示唆。しかしICCを創設したローマ規定には、国家元首を免責する条文はなく、ケニアにはバシール大統領を逮捕する義務がある。同国では2011年に、ローマ規定を実施する国内法を根拠に、バシール大統領に対する国内で初めての逮捕状が発行された。