HUMAN RIGHTS WATCH

ダルフール:レイプに対する無策

紛争発生から5年――今も横行する性暴力

(ニューヨーク、2008年4月7日) ヒューマン・ライツ・ウォッチは、本日発表した最新レポート で、5年に及ぶダルフール紛争の下、女性・女児を対象としたレイプなどの暴力行為が、政府軍や武装グループにより未だあらゆる地域で繰り返されている事実を報告し、女性・女児に対する保護の必要性を明らかにした。

同レポートは、政府治安部隊や国際平和維持部隊による女性・女児の保護は、婦女子がレイプその他の暴力被害に極めてさらされ易い大規模攻撃の際はもちろん、比較的沈静化している期間においてでさえも十分でないとしている。こういった性的暴力の被害者が法の正義を求めても、数多くの障害に直面し、彼らが実質的な救済を受けることはない。罪を犯した者が兵士や民兵であった場合、起訴の可能性はさらに減少する。  
 
 『停滞の5年間:放置されるダルフールでの性暴力』と題した44ページにわたるレポートにはダルフールに広く蔓延する性的暴力事件が記録され、ほんの11才の少女が犠牲となったケースなど、残酷なレイプ事件の詳細を伝えている。事件の多くが政府軍の兵士や政府軍側の民兵によるものであるが、スーダン政府は暴力行為を抑止できていない。また、ダルフールには国際平和維持部隊が配置されているが、現時点ではその規模が不十分である為、女性・女児をレイプなどの暴力行為から保護できていない。  
 
 「ダルフールの女性と女児は、現在も常にレイプの恐怖とともに暮らしている。スーダン政府は性的暴力に対して‘ゼロ・トレランス’(厳重処罰)を宣言したが、その犠牲者の保護についてはほとんどまったくの無策である。」 ヒューマン・ライツ・ウォッチのアフリカ局ディレクター、ジョージェット・ギャグノンはそう述べる。  
 
 2007年初頭より、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ダルフールのさまざまな地域で発生したスーダン政府軍兵士、政府よりのジャンジャウィード民兵、反乱軍兵士、元反乱軍兵士による夥しい数のレイプ、その他性的暴力事件を記録している。発生した事件の大多数は報告されないのが現状である為、記録された事件は性的暴力事件全体のごく一部に過ぎない。  
 
 大規模攻撃の際には、女性・女児は依然としてレイプなどの性的暴力の被害に遭う。2008年2月、政府軍と政府軍側民兵組織は、西ダルフール地方のシルバ、シレア、アブスルジの村々に大規模な陸空攻撃を加えた。地域住民の伝えるところによると、その際少なくとも10人の女性または女児がレイプされている。  
 
 政府軍兵士、民兵、反乱軍兵士、元反乱軍兵士は、国内避難民キャンプ外や農村部においても女性・女児をレイプしている。ある12才の少女は、妹といるところを軍服姿のアラブ系の男に声をかけられた。男は、いなくなったロバを捜してやるといって、彼女らを人気のない場所に連れ出した。「いっしょに行けば、教えてやると言ったの。男はわたしに掴みかかって、服を剥ぎ取って、ひどいことをした。妹は、走ってキャンプに逃げたの。」 少女は語る。  
 
 別の事件では、11才の少女が、7才の妹と草集めに出たとき、3人の武装した男にレイプされている。彼女はひどい怪我を負い、処置のためアフリカ連合 (AU) のヘリコプターで最寄の病院へ搬送されねばならなかった。  
 
 スーダン政府は、ダルフールで性的暴力が発生している実状を繰り返し公式の場で否定しているが、この問題についていくつかの小さな対応策を講じた。政府はわずかながら警察官と検察官を増員し、ダルフールの3州それぞれに、女性暴力撲滅の為の委員会を設立した。だが、これらの対策は女性・女児への暴力減少には至っておらず、被害者の司法アクセスへの増加もみられない。  
 
 「不処罰が蔓延している現在のダルフール情勢下では、これら凶悪犯罪の被害者が救済を得られる望みは、ほとんどまったくない。犯罪者を起訴しないことで、政府は彼らにレイプ許可証を与えているようなものだ。」とギャグノンは語る。  
 
 少なくともダルフールの主な町には、スーダン警察や、いくぶんか機能している司法制度が存在するが、女性・女児が犠牲となった犯罪に関してはほとんどが不処罰のまま放置されている。被害者は恐怖のため通報しないケースが多く、当局が支援してくれるという信頼も抱いていない。例え女性が通報したとしても、警察は往々にして届出を受理せず適切な捜査を行わない。被害者を邪魔扱いしたり敵対的な態度で迎える警察官すらある。  
 
 加えて、警察や法当局は、兵士や民兵による犯罪の多くを起訴する事に躊躇しがち、もしくは起訴できないでいる。例えば、2006年終わりに北ダルフール地方のアブサキン村で大規模攻撃があったときのこと。政府軍兵士とジャンジャウィード民兵が8人の女性と女児を拉致し、少なくともそのうち3人を残酷にレイプし、村に裸で歩いて帰らせた。被害者は容疑者を特定したが、現在にわたり軍隊は、検察官への身柄引渡しを拒否している。別の事件においては、警察は公然と、軍隊がかかわった事件には手が出せないと認めている。  
 
 ヒューマン・ライツ・ウォッチは、スーダン政府に以下を要請している:  
 
 
 
 反乱軍、元反乱組織、その他の非政府系武装グループについては、レイプその他の性的暴力は十全に捜査・起訴され、罪を犯した者は処罰の対象となるということを、それぞれが自らの構成員に周知徹底するべきである。  
 
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、国連AU合同ミッション (UNAMID) に対しても、ダルフールにおける性的暴力及び司法アクセスの欠如の問題について、以下に基づき対処するよう要請している: