- 大手宝飾品ブランド会社は金とダイヤモンドの調達方法で改善を重ねてはいるが、その大半は自社商品が人権侵害に汚染されていないことを消費者に保証できていない。
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金やダイヤモンドの採掘現場では、危険な環境で働かされている労働者も多い。また新型コロナウイルスの影響により、搾取と虐待リスクはより高まっている。
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自主的な基準の設定は、より良いビジネスプラクティスの推進につながる一方、すべての宝飾品ブランドが人権を真剣に考慮すること確実にするのは、法的義務化だけである。
(ロンドン)—大手宝飾品ブランド各社は金とダイヤモンドの調達方法で改善を重ねてはいるが、その大半は自社商品が人権侵害に汚染されていないことを消費者に保証できていない、とヒューマン・ライツ・ウォッチはクリスマスのショッピング時期を前に、本日発表した報告書内で述べた。
報告書「美しいジュエリー、汚れたサプライチェーン:宝飾品ブランド、調達方法の変更、新型コロナウイルス感染症」(全84ページ)は、宝飾品および時計ブランド15社に関し、金およびダイヤモンドのサプライチェーン上の人権侵害および環境問題への対応の取り組みを精査し格付けした。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、2018年にこの問題について最初に報告して以降、これら企業の動きを再び検証した。調査対象となった宝飾品ブランドの大多数はビジネスプラクティスを改善する措置を講じたが、いまだほとんどが国際基準を満たしていない。
ヒューマン・ライツ・ウォッチ子どもの権利局のアソシエイト・ディレクター ジュリアン・キッペンバーグは、「多くの宝飾品ブランドが金やダイヤモンドの責任ある調達に向け前進した。が、消費者はまだ、こうしたブランドの商品が人権侵害とは無縁であるとしっかり保証されたとはいえない」と指摘する。「新型コロナウイルス感染症パンデミックがおきている今、宝飾品ブランドには、人権侵害を特定・対応するために、さらなる注意深さが求められている。」
ヒューマン・ライツ・ウォッチはまた、新型コロナウイルス感染症が鉱業および宝飾品業界に及ぼした影響も調査した。ロックダウンで採掘が停止された地域では、鉱山労働者やその家族ならびにコミュニティが収入を断たれている。一方、産業採掘が続けられているところでは、労働者が閉鎖空間で一緒に採掘作業にあたったり、時にはホステルで共同生活を送っているため、より大きなリスクにさらされている。一部の小規模鉱山では児童労働および違法な採掘・取引が増加した。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、人権侵害がサプライチェーンを汚染している数多くの国々で広範な調査を実施した。ベネズエラでは、「シンジケート」として知られる武装集団が違法な金鉱を掌握し、住民や鉱山労働者に対して懲罰的な四肢の切断や拷問など、恐ろしい人権侵害を犯している。
ジンバブエでは、国営のジンバブエ合併ダイヤモンド社が民間の警備員を雇い、ダイヤモンドを勝手に採掘したと疑った住民に対し犬をけしかけるといった人権侵害を行っている。
ガーナ、マリ、フィリピン、タンザニアの小規模金採掘地域では、危険な児童労働が発生しており、金の精錬過程で子どもたちが水銀にさらされている。また、鉱山事故の犠牲になる子どももいる。
宝飾品および時計ブランド各社は、国連のビジネスと人権に関する指導原則のもと、サプライチェーンで権利侵害を引き起こしたり、加担することが決してないように、人権および環境デューデリジェンスの措置を講じる責任がある。この措置は各社がサプライチェーン全体について、人権・環境影響を特定・予防・対処・救済する手続きである。
今回査定した15社は、併せて400億米ドルを超える年間収益を生み出しており、これは世界の宝飾品売上の約15パーセントに相当する。調達方針および商習慣についての情報提供の求めに書簡で回答したのは、ブードルス (Boodles) 、ブルガリ (Bulgari) 、カルティエ (Cartier) 、ショパール (Chopard) 、周大福 (Chow Tai Fook) 、パンド (Pandora) 、シグネット (Signet) 、タニシュク (Tanishq) 、ティファニー (Tiffany&Co) の9社で、クリスト (Christ) 、ハリーウィンストン (Harry Winston) 、カリヤン (Kalyan) 、ミキモト、ロレックス (Rolex) 、TBZの6社は数回の求めに応じなかった。ヒューマン・ライツ・ウォッチは本報告書の調査のため、入手した情報または公開情報に基づいて評価を行った。
2018年の報告書「宝飾品の隠れたコスト:サプライチェーンにおける人権とジュエリーブランドの責任」で評価対象となった11社は、報告書の発表以後、自社の人権デューデリジェンスを改善するためにいくつかの措置を講じてきた。 金やダイヤモンドのトレーサビリティを強化したり、金採掘に関するリスクを回避するためにリサイクルの金のみを調達することを選択したり、サプライヤーの行動規範(Code of Conduct)を強化したり、サプライヤーを公表したりするなどのやり方だ。現在10社が、人権尊重より確かなものにするため、自社のデューデリジェンスに関する情報をより多く開示するようになった。
しかしながら大半のブランドは自分たちが扱っている金やダイヤモンドの原産鉱山がどこかを特定しておらず、そうした鉱山等のアセスメントもしていなければ、問題に対処もしていない。新型コロナウイルス感染症のリスクに伴い自社サプライチェーンを再調査したり直接の従業員のみならず、サプライチェーン上の労働者の権利を保護する措置を積極的に講じた企業はほとんどないようだ。
ブランドの大半は、デューデリジェンスの取り組みの詳細を報告しておらず、カリヤン、ミキモト、ロレックス、TBZ の4社にいたっては、調達方針または実務に関する情報をほとんどまたはまったく公開していない。このような透明性の欠如は、責任ある調達の国際規範に反しており、消費者、影響を受けるコミュニティならびに社会一般が、潜在的な人権侵害について暗闇におかれていることを意味する。
ヒューマン・ライツ・ウォッチの今回の調査・検証で、「責任ある調達に向けて重要な一歩を踏み出した」点において、「極めて強い」に格付けできるブランドは15社中1社もなかったものの、ティファニーとパンドラの2社を「強い」と評価。 ブルガリ、シグネット、カルティエは「中位」、ブードルス、ショパール、ハリーウィンストンは「やや弱い」、そして周大福、クリスト、タニシュクは「弱い」という結果になった。カリヤン、ミキモト、ロレックス、TBZは、調達方法が開示されていないため格付けは不可。 また、パンドラ、ブードルス、ショパール、ハリーウィンストン、タニシュクの5社が、前回の2018年よりも上位に格付けされた。
ヒューマン・ライツ・ウォッチはまた、「責任ある宝飾品業のための評議会」(RJC、Responsible Jewelry Council)や「責任ある鉱業の保証のためのイニシアチブ(Initiative for Responsible Mining Assurance)」などの、より広範な業界イニシアチブやマルチステークホルダーによるイニシアチブについてもアセスメントした。 加えて、ダイヤモンドをはじめとする鉱物の完全なトレーサビリティを確保するために、ブロックチェーンやレーザー技術などを活用するイニシアチブがいくつか進行中だ。
ただし、既存の認証イニシアチブの大半は依然として厳密さおよび透明性に欠けている。 その多くが加入メンバーに対し、完全なトレーサビリティ、透明性、または現地での確固たる人権アセスメントを義務付けていない。そして、宝飾品サプライチェーンの第三者機関による監査はリモートで実施されることが多く、結果も公表されない。
前出のキッペンバーグ 子どもの権利局アソシエイト・ディレクターは、「前進はあったが、宝飾品ブランドの大半にとって、サプライチェーン上の人権問題に対応し、その情報を広く一般に共有するためにできることはまだ数多くある」と指摘する。「自主的な基準の設定もブランドのより良いビジネスプラクティスの採用を推進するかもしれないが、結局は強制的な法的義務が課されてはじめて、すべてのブランドが人権を真剣に受け止めるようになる。」