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国際刑事裁判所のバシール大統領に対する措置

Q&A

2008年7月14日、国際刑事裁判所(ICC)検察官は、ジェノサイド(集団殺害)罪、人道に対する罪及び戦争犯罪の10の訴因の容疑で、スーダン大統領オマル・バシールに対する逮捕状を請求した。逮捕状の請求に関して多くの疑問が生じる。以下は、そうした疑問のうち、典型的な質問とそれに対する回答である。

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  1. バシール大統領への逮捕状は出されたのか。それはいつ出されるか。
  2.  
     
    バシール大統領への逮捕状はまだ発付されていない。検察官は、ICCの予審裁判部(3人の裁判官からなる法廷)に対し、これまで同検察官の行った捜査に基づき、オマル・バシール大統領の逮捕状を請求した。検察官が提出した証拠の概要に基づき、同大統領が逮捕状請求の対象たる当該犯罪を行ったと「信ずるに足る合理的な理由」が存在すると予審裁判部が認める場合、逮捕状が発付される。逮捕状又は召喚状を発付する権限を有するのは予審裁判部のみ。これまでのICC係属事件では、予審裁判部が検察官の逮捕状請求について決定を行うのに数週間かかっている。  
     
  3. 予審裁判部は、逮捕状に関して決定を行う際、いかなる要素を考慮するか。
  4.  
     
    ローマ規程に従って逮捕状を発付するか否かを決定する際、予審裁判部は次のような要素を考慮すると見られる:  
     
     当該犯罪が、ICCの地理的及び時間的管轄権の範囲内で行われたか  
      ICCの管轄権が及ぶまで当該事件が重大か(ICCのマンデートは、戦争犯罪、人道に対する罪及びジェノサイド(集団殺害)罪を含む「国際社会全体の関心事である最も重大な犯罪」の捜査・訴追に限られている)  
     スーダンの国内司法が当該事件の訴追を真に行う意思又は能力がないといえるか  
     
    予審裁判部が、ICCの管轄権の範囲内にある犯罪が行われたと信ずるに足りる合理的な理由が存在し、かつ、当該事件につきICCでの審理がふさわしいと認める場合で、当該人物の出廷を確保する必要性、当該人物が捜査・訴訟手続を妨害しないよう確保する必要性、又は、当該人物が当該犯罪を継続して行うことを防止する必要性のいずれかが認められる場合、予審裁判部は、逮捕状を発付しなければならない。または、法廷は召喚状を発付する可能性もある。  
     
     
  5. ICC検察官は、国家元首を訴追できるか。大統領、首相、その他国家や政府の長は免責されないのか。
  6.  
     
    ローマ規程は、公職上の地位に拘わらず、すべての人にひとしく適用される。加えて、当該人物が当該公的資格を有する結果国内法上与えられるいかなる免責も、国際刑事裁判所の訴追を妨げない。ローマ規程第27条は、国家元首も訴追を免れないと明示に規定している。  
     
  7. ジェノサイド(集団殺害)罪では、何を立証する必要があるか。
  8.  
     
    ローマ規程では、ジェノサイド罪とは、国民的、民族的、人種的又は宗教的な集団の全部又は一部に対し、その集団自体を破壊する意図をもってある特定の犯行を広範に行うことを指す。特定の犯行とは、殺害、重大な身体的又は精神的傷害を与えること、身体的破壊をもたらすことを意図して生活条件を故意に課すること、出生を妨げることを意図する措置をとること、子どもを他の集団に強制的に移転させることである。  
     
    ジェノサイド罪を証明するため、ICC検察官は、上記犯行の一部又は全部が行われ、かつ、それらが集団の一部を破壊する特定の意図と目的でなされたことを示さなければならない。  
     
  9. 人道に対する罪では、何を立証する必要があるか。
  10.  
     
    ローマ規程では、人道に対する罪を立証するためには、検察官は、被疑者が、文民たる住民に対する攻撃であって広範又は組織的なものの一部として、ある特定の行為(例えば、殺人、絶滅させる行為、住民の追放又は強制移住、強姦、拷問、迫害、強制失踪、そのほかの非人道的行為)のうちのひとつを行ったことを示さなくてはならない。検察官は、上記記載の犯行のいくつかが、国家又は組織の政策の一部として行われ、かつ、被疑者がそのような攻撃であるとの認識を有していたことを示す必要がある。  
     
  11. 検察官は、どうやって、バシール大統領がダルフールでの犯罪に関わっていたと立証するのか。
  12.  
     
    ローマ規程上、刑事責任の根拠は2つある。個人責任は、個人がICCの管轄権の範囲内の犯罪を、直接又は共同で行うか、当該犯罪の実行を命じ、教唆又は勧誘し、当該犯罪を幇助若しくは教唆し、又はその他の方法で援助する場合である。上官責任とは、軍の指揮官又は実質的な指揮官として行動する者が、当該軍隊が犯罪を行っており若しくは行おうとしていることを知っており、又はその時における状況によって知っているべきであった場合に、犯罪の防止又は犯罪人の処罰を怠たる責任のことである。  
     
  13. ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ダルフールでの犯罪におけるバシール大統領の役割についていかなる事実を明らかにしたのか。
  14.  
     
    ヒューマン・ライツ・ウォッチは、2005年12月の報告書『蔓延する不処罰:ダルフールでの国際犯罪に対する政府の責任』で記録したとおり、バシール大統領を含むスーダン指導部の最高幹部が、ダルフールの一般市民を意図的かつ計画的に攻撃対象とする対反政府勢力作戦(国際法違反である)の計画と調整に責任があると明らかにした。  
     
    バシール大統領は、スーダン軍の司令官として、ダルフールでの軍事作戦において重要な指導的役割を果たした。バシール大統領が公に発表したステートメントは、スーダン治安部隊による軍事行動及び残虐行為のピークの前触れとなった。スーダン治安部隊は、政府、軍隊及び治安部隊にひそかに与えられた指令を実行したとの疑いを示す事実がいくつもある。例えば、2003年12月30日、バシール大統領は「我々の最優先事項は、武器を持つ反乱軍と無法者の殲滅である」と明らかにした。数日後の2004年1月、スーダン治安部隊は、国際人道法に違反する組織的な軍事戦略を用いた攻撃を開始し、ダルフールの農村地帯から数十万の人びとを追放。また空軍幹部からの抗議にも拘わらず、軍事作戦の一環として一般人を攻撃対象とした空爆という方法が継続的に使用されていることも、スーダン政府高官の関与を示していると思われる。  
     
    バシール大統領は、治安軍が残虐行為を犯していることを明白に認識していた。2002年5月以来、何万人もの避難民が出ていることが報告され、何十もの警察の申立、多くの新聞記事、国連人権高等弁務官事務所を含む多数の団体の報告が、大規模な残虐行為がダルフールで行われていることを明らかにしていた。スーダン政府は南スーダン紛争においても民族民兵を使用したが、上記情報とは別に、その時の経験も、民族民兵が必ず一般市民を攻撃の対象としその他の戦争犯罪行為を行うことを十分に示していた。  
     
    バシール大統領又はその他の高官が、残虐行為を防ぎ又は停止するため何らかの措置を誠実に取ったという証拠はない。上記のような報告が広く知られた後も、スーダン軍及び「ジャンジャウィード」と呼ばれる政府が後ろ盾となっている民兵は、長きにわたり犯罪を実行し続けた。バシール大統領が(大統領個人を報告先とする)全国犯罪調査を開始した後も、従前行われてきた犯罪と同一の特徴を有する犯罪が続いている。例えば、2004年12月に行われた攻撃では、ジャンジャウィードの攻撃とスーダン軍の攻撃はよく調整され、村落の空爆、一般市民の大量の強制追放など、従前の攻撃と同様の特徴を有していた。  
     
  15. 逮捕状の発付はダルフールの和平交渉に影響を及ぼすか。ICC検察官は、これらの問題を考慮した上で判断すべきではないか。
  16.  
     
    逮捕状の発付が、スーダン政治の進展に及ぼす影響を予測することは難しい。しかし、ダルフールの和平交渉は長く遅れてきたが、その原因はICCとはまったく無関係である。逆に、紛争当事者たちは、和平協議を通じて解決に至ろうと積極的に取組んでいるようには見うけられない。実際、バシール大統領は、今日まで、ダルフール和平協議に参加さえしていなかった。  
     
    他の紛争の歴史は、逮捕状発付が、当該指導者に汚名をきせ、同人を権力から疎外し、もって、和平プロセスに貢献しうることを示している。リベリア元大統領チャールズ・テーラーとボスニア・ヘルツェゴビナの政治リーダーのラドバン・カラジッチに対する逮捕状発付の結果、同人らが和平プロセスに参加しなくなり、最終的に合意達成の促進材料となった。また、ウガンダの神の抵抗軍(Lord's Resistance Army in Uganda)の指導者に対するICC逮捕状発付の結果、和平協議に長年見向きもしなかった同勢力が和平協議を行う意向に変わったことは、多くの人びとが認めるところである。  
     
    いずれにせよ、ICC検察官は、訴追を検討する際、和平プロセスなどの問題を考慮に入れることを義務付けられていない。検察官の役割は、被疑者の地位に拘わらず、戦争犯罪、人道に対する罪及びジェノサイド罪について最も重大な責任を有する被疑者を捜査し、訴追することにある。検察官は、自らのマンデートを達成するため、独立かつ非政治的に職務を遂行する義務があり、平和と安全に関する決定をする公の権限を付与されていない。  
     
  17. 逮捕状請求は、平和維持軍の配備にいかなる影響があるか。
  18.  
     
    スーダンは、ダルフールにおける国連平和維持軍たるUNAMIDの完全な配備を率先して促進するよう義務付けられている。これは安全保障理事会決議1769上の義務であり、同義務は、どんな形であれ、検察官の逮捕状の請求による影響を受けない。安全保障理事会がUNAMIDを承認してから一年間、スーダンは、軍の完全な配備を絶えず妨害してきた。そして、UNAMIDは、その承認された兵力の3分の1の兵力で、整備されたキャンプもほとんどないままかろうじて活動している状態である。国連安全保障理事会と関係諸政府は、ICC活動のいかんに拘わらず、安全保障理事会においてスーダン政府及びその最高幹部への対象限定制裁を課すことを含め、UNAMIDの完全な展開をスーダンに認めさせるよう圧力をかけ続ける必要がある。  
     
  19. 検察官の請求は、現地の人道援助機関と平和維持軍にどんな影響があるか。
  20.  
     
    ヒューマン・ライツ・ウォッチは、人道援助機関と平和維持軍が困窮するダルフールの住民にアクセスすることを、スーダン政府が確保していない点を長い間懸念してきた。そしてその懸念は現在も続いている。国際法上、スーダン政府に対し、困窮するダルフールの人びと全てに援助要員の完全で安全かつ妨害されないアクセスを確保する義務がある。同時に、特に国内避難民と難民に対する人道援助支援の配給を確実にすることも国際法上のスーダン政府の義務である。しかも、国際法は、人道援助要員や平和維持ミッション要員を標的とする攻撃を戦争犯罪として禁じている。検察官の請求に拘わらず、スーダン政府はこうした国際法を遵守する義務を負っている。  
     
    スーダン政府が、人道援助要員あるいは平和維持要員を意図的に攻撃又は妨害する場合、国連安保理は、スーダン政府の義務の遵守を確実にするため、制裁を含む適切な措置を取ることによって応えるべきである。  

     

     
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