(ニューヨーク)-南部スーダン政府は、各地の武装組織、軍、治安部隊などによる暴力や過度な武力行使から民間人を保護し、人権保護のための緊急の行動をとるべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日公表された報告書で述べた。一方で、国民会議党とスーダン人民解放運動(SPLM)からなる国民統一政府は、21年間にわたる内戦を終結させた2005年の南北包括和平合の人権条項を遅滞なく履行するべきである。
44ページの報告書「南部スーダンでの保護の欠如:治安と人権の課題」 は、SPLM率いる南部スーダン政府が抱える緊急の人権課題を取りまとめている。同政府が抱える問題には、民間人を武装襲撃や暴力からしっかり保護出来ない事や、治安部隊による人権侵害に対処できていない事、脆弱な司法制度などがある。現在のところ2009年半ばに予定されている選挙を自由で公正な選挙とするため、緊急に行なうべき司法改革の概要も、本報告書で明らかにしている。
「南部スーダン政府は、民間人に犯罪を犯した兵士や警察官の責任をしっかり追及するとともに、刑事司法で蔓延する組織的な人権侵害行為に対処するべきである」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアフリカ局長、ジョージェット・ギャグノンは述べた。「国民統一政府は、選挙を前に、弾圧的な治安維持法と報道法を改正し、国家人権委員会を設立するなどして、人権を最優先課題とする必要がある。」
和平合意の中で、選挙前に行うこととされている極めて重要な施策が、いまだに講じられておらず、緊急の改革が必要とされている。例えば、2008年4月に行なわれた国勢調査の結果の公表、北部と南部の境界画定、基本的な選挙準備などが必要である。石油資源が豊富で帰属が争われているアビエイ地域では、2008年に大規模な戦闘がおき、多数の民間人が避難する結果となった。早期の解決が必要である。
こうした施策すべてが、新しい紛争の火種となる危険性をはらんでいる。
2005年の和平合意のもとに設立された南部スーダン政府は、長期の内戦で荒廃した社会の復興と国家再建を大胆に進めてきた。しかし、南部スーダンの治安部隊を含む様々な武装グループの暴力から、民間人を守れていない。
2008年、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、警察活動中のスーダン人民解放軍の兵士が重大な人権侵害に関与している事を明らかにした。例えば、9月、ルンベクで、武装解除作業の際に兵士らが少なくとも8名の民間人を銃撃。目撃者によると、一部の兵士は、酒に酔って非武装の民間人に発砲した、とのことであった。
6月、東部エクアトリアで2度にわたっておきた兵士と民間人の衝突で、合計10名の民間人が殺害された。目撃者は、ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、「衝突のとき、兵士たちは、至近距離から3名の男を殺した。その後、2名の非武装の民間人を殺した」と話した。
「まともな訓練も受けず、規律もなっていない兵士たちは、民間人を保護するどころか虐待してしまうことが非常に多い」とギャグノンは述べた。「南部スーダン政府には、人権基準を遵守する軍隊を実現するための戦略が必要だ。」
報告書は、南部スーダン政府治安部隊による民間人に対する暴行、強盗、脅迫、土地強奪、性的暴力などの犯罪についても調査・報告。兵士や元兵士が、多くの場合、自身を南スーダンの「解放者」だから法に縛られないと考えていることを明らかにした。政府が兵士による人権侵害事件を捜査する場合でも、実際に訴追にまで至る事件はめったにない。
「南部スーダン政府は、本気で法の支配の確立を目指していることを内外に示すべきだ。そして、民間人に対して犯罪を犯した兵士と治安部隊要員を、すべて捜査・訴追するべきである」と、ギャグノンは述べた。
加えて、報告書は、生まれたばかりの脆弱な南部スーダンの司法制度の問題点、すなわち、恣意的逮捕・拘禁の多発、長期の未決拘禁、劣悪な環境の拘禁施設などの問題についても詳述。違法な拘禁は行なわないこと、そして、全ての拘禁施設に定期的な査察を行なうことを、ヒューマン・ライツ・ウォッチは南部スーダン政府に求めた。
その他、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、南部スーダン政府及びドナー政府各国に対し、警官や兵士に、法律上の役割と責任について教える訓練をもっと行なうことや、南部スーダンの人権、対汚職、土地の各委員会への更なる支援を行なうことなどを要請した。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、国連スーダン・ミッション(UNMIS)に対し、UNMISに与えられた民間人保護のマンデートをより積極的に解釈し、民間人保護のキャパシティー(能力)を高めるよう、強く求めた。とりわけ選挙前、政治的緊張の高まりから、境界争いが続いている地域で新たな武力衝突が起きる可能性のあることから、国連ミッションは、そうした地域での人権状況の監視及び報告・公表活動を強化すべきである。