(ジュネーブ、2017年2月8日) - 国連子どもの権利委員会は、強制労働と差別による子どもの搾取を停止するよう北朝鮮政府に強く求めるべきだ、とヒューマン・ライツ・ウォッチと韓国のNGO3団体が本日述べた。2017年2月6日の週に、ヒューマン・ライツ・ウォッチ、北朝鮮における人道に対する罪を止める国際NGO連合(以下ICNK)、ニューコリア女性連合(New Korea Women’s Union)、カレブ宣教会(Caleb Mission)は、 北朝鮮における子どもの権利の状況について、ジュネーブで同委員会の会期前作業グループに対しブリーフィングを行う予定だ。
北朝鮮政府は70年前に児童労働を廃止したと主張しているが、朝鮮労働党ほかの政府機関は依然として生徒をはじめとする子どもたちに対し、国家のための強制労働を義務づけている。そのほかの人権侵害としては、教育機会をめぐる差別、第三国出身の母親とその子どもに対する人権侵害、学校での体罰、準軍事組織の強制労働旅団(韓国語ではdolgyeokdae)における無給の長時間労働の強要などが挙げられる。
ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局局長代理フィル・ロバートソンは、「子どもを強制的に働かせることは、世界中で非難されている言語道断な人権侵害だが、北朝鮮の多くの生徒にとっては日常生活のごく一部だ」と述べる。 「国連子どもの権利委員会は、北朝鮮がこれらの人権侵害行為について真実を明かし、直ちにやめるよう強く求めるべきだ。」
子どもの権利委員会は、脱北した10代の少女2人から経験をヒアリングする予定だ。 チョン・ヒョイン(Jeon Hyo-Vin・16歳)さんは、家族が必要な学費を支払えないために中学校中退を余儀なくされるまで、ほぼ毎日強制労働をさせられていたと証言する。キム・ウンソルさん(Kim Eun-Sol ・18歳)さんは、10代になるよりも前から学校での強制労働に耐えていた。祖母が養育できなかったため、13歳になる頃には生き残るため、他人の家で無給労働に従事していた。出稼ぎのため中国に脱北した母親は、娘と連絡を取り続けることができなかったという。
子どもの権利委員会は、北朝鮮も批准している子どもの権利条約に照らし合わせ、各締約国による諸義務の遵守状況を審査する。今回の会合前作業グループのブリーフィングは非公開。市民社会団体と当事者の子どもたちがそれぞれ機密性を保ちながら、北朝鮮の子どもの人権状況をめぐる懸念を委員会メンバー伝える機会だ。課題の一覧表が、作業部会ブリーフィングに続いて出され、北朝鮮はこれに対し意見を表明することができる。NGOは2017年9月の完全公開審査に先だち、さらなる資料の提出もできる。この審査では、委員会が提起された課題について、当該政府の代表者に質問をすることになる。
前述の諸団体の調査によると、朝鮮労働党および教育省は学校や大学と協力して子どもたちを強制労働にかり出している。また、the Korean Children’s Unionなどの党の支部(7歳〜13歳の生徒に参加義務がある)や、Kimilsungist-Kimjongilist Youth League(14歳〜30歳までの生徒・学生からなる)も利用されており、。 学校、党の支部、学校責任者、そして教師は、生徒に対して農作業や、建物・彫像・道路・鉄道の建設アシスト、資材の収集(たとえば、廃鉄材や割れた岩、小石、うさぎの皮、古紙)などを義務づけている。資材は利用されたり、学校が売る。もしこうした回収作業でノルマを果たせなかったら、現金でのペナルティを科されることも珍しくない。
北朝鮮政府はまた、16歳、17歳で義務教育が終了した多くの子どもに、準軍事組織である強制労働旅団への参加を強制している。これを統括するのは朝鮮労働党だ。こうした旅団は軍隊式の制度をもち、主に建物やそのほかの公共インフラ建設プロジェクトに従事する。「出身成分」(認知された党への政治的忠誠をもとに北朝鮮市民を優遇・差別する社会・政治的身分制度)の低い子ども、あるいは貧しい家庭の子どもは、しばしばこうした旅団できつい労働に従事させられ、その期間は最長で10年にも及ぶ。
ICNKのクォン・ウンギョン事務局長は、「北朝鮮で強制労働旅団への入団を余儀なくされた子どもたちは劣悪な状況下で暮らしており、自由に退団することもできない」と指摘する。「こうしたかたちの奴隷制度はただちに廃止されなければならず、かつ旅団を指揮する責任者もその罪を問われるべきだ。」
北朝鮮の人権状況に関する国連調査委員会は2014年、人権侵害の衝撃、規模、性質のすべてにおいて「現代の国際社会でほかに類がない」ものと結論づけた。子どもたちが直面している人権侵害には、政治犯収容所へ拘禁されていること、中国人男性が妻として、あるいは性産業への斡旋として北朝鮮の少女を人身取引や性的搾取の対象にしていること、市民・政治権や自由が幼少期から保障されていないことなどが含まれる。国連人権理事会および国連総会は、北朝鮮における人権状況をこれまでも非難してきた。国連安全保障理事会も北朝鮮の悲惨な人権問題を国際平和への脅威とみなして、3年連続で公式議題に取り上げるなど、事態の重大性を認識している。
NGOニューコリアのイ・ソンヨン代表は、「北朝鮮政府による子どもの搾取は、子どもをまもるという義務をないがしろにしているだけのものではない」と指摘する。「政府はまた、低い階級や貧しい家庭にうまれたもっとも弱い立場にある子どもたちを搾取し差別しているのだ。」