(バンコク)–ビルマの結社法案は国際人権基準を満たしておらず、大幅な修正を行うか、廃案にすべきである。原案通り可決された場合、同法は政府に対し、民間団体の活動を過度に監視する権限を与え、ビルマの改革と発展を名目に、言論・結社の自由を制約する。
2013年7月27日に公表された、「団体の結成に関する法律」案は、ビルマ国会にて近く審議される予定。法案が通過すると、非政府団体(NGO)は、活動に際して政府への登録が必要となる。また、実質的に国軍の統制下にある機関に、かなり包括的で曖昧に定義された規制の権限が与えられ、団体は、異議申し立ての不可能な恣意的な決定に従属させられる。未登録団体の構成員には、刑事罰が下される可能性もある。
「本法案が通過すると、団体の活動を不許可とし、当該団体が許可なく活動すれば、指導者や構成員を投獄できる、広範な権限がビルマ政府に与えられる」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長代理フィル・ロバートソンは述べる。「現政権は、市民活動への完全なコントロールを依然として望んでおり、このきわめて重要な改革期に、権力を監視する団体の発言を実質的に封じようとしているようだ。」
結社法案には、世界人権宣言と人権に関する国際条約が定める、結社の自由の権利に反する条項がいくつも存在すると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。
同法案は、すべてのNGOを事前登録制とし、政府の承認を活動要件とすることで、結社の自由の権利を実質的に制約している。第8章は、「結成許可書」のない団体とその構成員は、「団体を結成し、あるいは団体として活動することができない」と定める。違反者は、刑事罰(最高3年の懲役と罰金)の対象となる。
第3章により設置される「中央委員会」には、NGOの登録を不許可とし、既存の団体を解散させる、自由な権限が付与される模様だ。委員会について、独立や権限を保障する条項はない。委員長は内務大臣が務める。内相は、ビルマの2008年憲法では、現役国軍幹部が指名されることとなっている。ビルマ国軍は、内外の団体と長年敵対しており、NGO登録に関する同委員会の中立性には深刻な懸念が生じている。
法案によると、中央委員会の決定は最終的なもので、上訴の機会がない。さらに、登録が保留や取り消しとなった場合に、異議を申し出る条項がない。委員会には、「結成時または登録時と異なる方法、または異なる目的のために活動することが発覚した」団体について、登録取り消しを行う広範な権限がある。また同法には、手続き上の保護措置が存在しない。規制実施に関する事前通知はなく、登録取り消しまたは停止に先立つ問題解決の機会は提供されず、登録取り消しが最終的な認可の手段に限定されてもいない。申請を受けて委員会が決定を行うまで、90日待たされることになるが、この期間は不必要に長い。
また法案によれば、国内外のNGOの登録有効期間はわずか5年であり、団体側は、期限切れ前に再申請を行わなければならない。このような再登録の義務づけにより、中央委員会は、政府の政策に反対の立場で動いたり、政策を批判したりする団体に対し、報復が可能になる。
本法案は、国際的な基準に沿うよう修正されるべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。登録は任意とし、非登録団体に対する刑事罰などの罰則規定を削除すべきだ。曖昧で、しっかりとした定義のない条項については、明確な規定を示すことで、政府がこの法律を用いて、政府に批判的な団体の登録を拒否するかたちで当該団体を攻撃することを防ぐべきだ。一般に政府には、法人登録をする民間団体の便宜をはかって、犯罪活動を防止するにあたり規制を行う正統な利害がある。だが、そうした規制措置は、結社・表現・集会の自由の権利を侵害する、カモフラージュになってはならない。
「結社法案が成立すれば、容易に悪用され、政府の政策や行動に批判的な団体の登録を抹消することが可能となる」と、前出のロバートソンは述べた。「政府は、民間団体を国の改革と発展にとっての障害ではなく、その鍵と見なすべきだ。」
この法案はまた、外国の団体に制約を課して、合法的な活動を大きく妨げることができると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。中央委員会は、国際NGOに対し、活動にあたって官庁と覚書を交わすよう求めることが可能となる。現在、こうした覚書を交わしているのは、一部の団体でありすべてではない。登録を行わないか、登録を拒否された団体は、「活動あるいは存在してはならない」と定める。同法では、この規程が、ビルマに関する活動すべて(例えば、短期訪問も含めて)を禁じるものなのかは、はっきりしていない。
ビルマにおける国内NGOとコミュニティ・グループの数は、2008年5月のサイクロン「ナルギス」が深刻な被害をもたらして以来、激増した。こうした団体は、女性の権利、環境保護、貧困削減、経済発展、健康、教育、人権といった分野で、きわめて重要な役割を果たしている。
これら団体の多くが、法案に強い反対をすでに表明している。条項の多くが不適切だとし、起草過程では、民間セクターと十分な協議を行っていない、と批判した。8月21日付の声明で、国連のビルマ特使トマス・オヘア・キンタナ氏は、原案通り成立すれば、ビルマ国内の「たくましく、活気のある民間セクターの発展を、大きく妨げることになる」とし、「ビルマ政府は、民間セクターの発展を促す環境を創出するつもりならば、法案審議に関する考え方を変えるべきだ」と述べた。
「ビルマは現在、数十年に及んだ過酷な権威主義的支配体制から、ゆっくりと回復しつつある。旧体制下では、多くの団体が政府の管理下に置かれるか、亡命を余儀なくされた」と、ロバートソンは述べた。「今回の結社法案は、ビルマ国内の民間セクターが挙げた近年の成果を脅かし、改革プロセスについて、政府のアカウンタビリティを強めようとする努力を制限するものだ。」