(東京)-日本の安倍晋三首相は、性的指向・性自認に基づく差別を禁止する法律の成立に向けたコミットメントを示すべきだと、LGBT法連合会(J-ALL)、アスリート・アライ、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。人権とLGBT等(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー等)にかかわる内外96団体が、数ヶ月に及ぶ関係者との調整の末、2020年4月17日付で安倍首相宛に書簡を送ったが、返答はない。
東京は2020年夏季五輪のホストだが、新型コロナウイルス感染症(Covid-19)の感染拡大を受けて、国際オリンピック委員会と日本政府は1年延期を決定した。国際反ホモフォビア・トランスフォビア・バイフォビアの日(IDAHOBIT)である5月17日には、96の団体が2021年の夏季五輪大会開催に先立ち、LGBT差別禁止法を制定するよう、日本政府に公開書簡を通じて強く求めた。
「日本のLGBT等の人びとには、平等な法的保護を受ける権利がある」と、LGBT法連合会(性的指向及び性自認等により困難を抱えている当事者等に対する法整備のための全国連合会、J-ALL)共同代表の五十嵐ゆりは述べた。同団体には日本国内のLGBT等関連100団体が参加している。「東京2020大会の2021年への延期により、日本政府はすべての人を保護する法律を提出・成立させる時間的猶予を得たといえる。」
オリンピック憲章は「オリンピズムの根本原則」のひとつとして、性的指向を含む「いかなる種類の差別」も明示的に禁じている。また日本政府は、市民的及び政治的権利に関する国際規約及び経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約など、差別がないことを確保する政府の義務を定めた主要な人権諸条約を批准している。
東京2020大会は「多様性と調和」と「未来への継承」などを基本コンセプトとする。2015年3月18日の早稲田大学での講演で、安倍首相は「差別をなくし、人権を重んじる決意をいよいよ堅固にする」と述べており、2019年3月25日の参議院予算委員会では「社会のいかなる場面においても、性的マイノリティーの方々に対する不当な差別や偏見はあってはなりません」とも答弁している。
「これまでの歴史を見てもわかるように、五輪大会には、アスリートやファンによる信念を後押しする力がある。トミー・スミスとジョン・カルロスが1968年メキシコ夏季五輪で行った人種差別に反対する行為(ブラックパワー・サリュート)から、2014年ソチ冬季五輪憲章6条キャンペーンに至るものだ」と、アスリート・アライ創設者で代表のハドソン・テイラーは述べた。「スポーツは私たちに団結が力だと教えている。そして今こそ、世界のスポーツ・コミュニテイが日本のLGBTコミュニティと連帯すべき時だ。」
日本政府はまだ、LGBT等の人びとの保護を含む国レベルの差別禁止法を導入していない。しかし東京都では2018年10月、オリンピック憲章に沿って、LGBT等の人びとへの差別を禁止する条例(「東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例」)が制定された。
東京都の動きは重要なものだが、東京2020大会では、マラソン、競歩、ゴルフ、フェンシング、サーフィンなどいくつもの競技が、北海道、埼玉、千葉、静岡、神奈川、宮城、福島など東京都外で開催される。都外では、LGBT等の日本のファン、アスリート、外国からの訪問者などに、東京都の差別禁止条例の保護の効力は及ばない。
日本政府は、性的指向および性自認に基づく差別と暴力の廃絶を目指す2011年と2014年の国連人権理事会決議に賛成するなど、近年国連でリーダーシップを示しつつある。しかし、日本のLGBT等の人びとは国内で厳しい社会的圧力に依然さらされており、国内のそれ以外の人びとと比較すると法的保護が弱い。4月にLGBT法連合会が実施したアンケートの結果によると、新型コロナウイルス感染症(Covid-19)の感染拡大に伴い、日本のLGBT等の人びとは、医療へのアクセス困難、収入減少、公的支援を受ける際に法的保護のないまま性的指向や性自認がアウティングされる懸念など、LGBT等の固有の困難に直面している。
国際反ホモフォビア・トランスフォビア・バイフォビアの日は、世界保健機関(WHO)が同性愛を「精神障害」から削除した1990年5月17日を記念するもので、反差別の日として国際機関をはじめとする世界中で毎年この日に記念行事等が開催されている。
「日本にとって、LGBTの権利で世界のリーダーになるチャンスだ」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表の土井香苗は述べた。「東京都が表明したLGBTコミュニティへの連帯に、日本政府も続くべきだ。」
この記念すべき日にあらゆる状況下における性的指向や性自認に関する差別の撤廃を強く発信したい。