(東京、2022年2月9日)日本の株式会社横河ブリッジは、軍系企業ミャンマー・エコノミック・コーポレーション(MEC)との事業提携を止めるべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。同社は2022年2月2日、ヒューマン・ライツ・ウォッチの書簡に対して、「個別の案件に関する回答は控える」とした。
ミャンマー国軍は2021年2月1日、クーデターを起こし、民主的に選ばれた政治家らを拘束した。政治囚支援協会によると、治安部隊はこれまでに100人の子どもを含む1,500人以上を殺害し、1万人以上を拘束した。外国企業はミャンマーの軍系企業との事業提携は止めるべきだ。
「まだ具体的な策を取っていない場合、横河ブリッジはミャンマー国軍に利益が発生しない形で、事業提携を止めるべきだ」とヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局プログラムオフィサーの笠井哲平は述べた。「行動を取らないと、同社の評判を傷つけるリスクはもちろん、軍の人権侵害の資金源になってしまう。」
2015年の決算説明会資料によると、株式会社横河ブリッジホールディングスの子会社である株式会社横河ブリッジは、2014年3月にMECと覚書を締結した。MECはミャンマーの国防省が所有する軍系企業であり、また軍の兵站局によって管理されている国軍の「直接的資金源」である。同資料によると、横河ブリッジはMECと「技術協力について関係を構築」し、MEC の「友好ファブへの育成」を目指している。
また、同資料によると、同社は 2014 年 9 月より、MEC への「OJT による技術移転」を開始。「技術移転」には、「生産性や品質の向上の方策」や「 架設エンジニアリングの技術指導」が含まれている。同社は 2015 年 7 月にヤンゴン支店を開設し、同支店を「情報収集、技術移転の基地として活用」すると発表した。
横河ブリッジホールディングスの「第5次中期経営計画2020-2022.3期」という資料には、「ミャンマーMEC社との関係強化により、さらなる発展・拡大」と、記載がある。
横河ブリッジとMECの関係は、日本政府が支援する「バゴー橋建設事業」にMECが保有する製鉄所が携わっていることを、現地メディア「ミャンマー・ナウ」が2021年3月に報道したことから、注目を浴びた。2021年4月、横河ブリッジホールディングスは、工事は「現地の情勢から実質的にストップ」しており、「人権を尊重した企業行動を行って」いくとした。
横河ブリッジとMEC が締結した覚書の詳細が記載された 2015 年の決算説明会資料は、2021 年 1 月 25 日時点で、横河ブリッジホールディングスのサイトで閲覧可能だった。しかし、2021 年 5 月 12 日時点では、2015 年の資料を含む2019年より前の資料が削除された。2022年2月3日現在も、上記資料は閲覧不可の状態だ。
2019 年 に国連の事実調査団が発表した報告書によると、MECは製造、採鉱や通信事業を通じて、膨大な利益を得ている。事実調査団は、ミャンマー国軍及び軍系企業と関係する「あらゆる外国の企業活動」が、「国際人権法および人道法違反に寄与、あるいは関与するリスク」が高いと結論付けた。最低でも、「こうした外国企業がミャンマー国軍の財政能力を支援している」とした。
事実調査団は、国際人権法および人道法の現在進行中と今後の違反を阻止するために、軍の「財政的孤立」を提言した。米国、イギリス、欧州連合、そしてカナダ政府は、MEC及び軍系企業のミャンマー・エコノミック・ホールディングス(MEHL)が国軍の資金源になり、人権侵害に加担していることから、既に経済制裁を課した。
2021年5月21日、国連のビジネスと人権に関するワーキンググループは、「企業は人権に対する責任を果たし、ミャンマー国軍による深刻な人権侵害を止めるよう働きかけるべきだ」と声明を発表した。具体的には、企業は「国連のビジネスと人権の指導原則に沿い、人権侵害の加担」を避けるべきだと呼びかけた。
「国連ビジネスと人権に関する指導原則」では、企業は「自らの活動を通じて人権に負の影響を引き起こしたり助長することを回避し、そのような影響が生じた場合にはこれに対処」すべきであり、「たとえその影響を助長していない場合であっても、取引関係によって企業の事業、製品またはサービスと直接的につながっている人権への負の影響を防止または軽減するように努める」と定められている。ステークホルダーに対して同社が具体的にどのような対策を取ったか説明することも上記原則に当てはまる。
「横河ブリッジ、及びその親会社にあたる横河ブリッジホールディングスは、MECとの事業提携に関する最新の情報を明らかにして、提携解消に向けて取った策について説明すべき」と笠井は述べた。「透明性の確保やステークホルダーとの対話は一企業の人権デューデリジェンスにおける責任だ。」