Skip to main content
寄付をする

香港:学問の自由が衰退 国家安全維持法の締め付けの下で

学生と教員への検閲や嫌がらせ、人権の制限が強化

Hongkong Academic Freedom Banner © 2024 vawongsir for Human Rights Watch
  • 中国政府が2020年6月30日に香港に厳しい国家安全維持法を施行して以降、香港での学問の自由は著しく衰退している。
  • 学問の自由に慣れ親しんできた学生や教員ではあるが、講義や研究、出版の内容はおろか、学術交流の相手すらも、報復を避けるために慎重に選ばなければならなくなっている。
  • 関係国政府、および香港の大学と提携関係を持つ海外の大学は、提携先の教員や学生のために声を上げるとともに、提携関係を見直して人権侵害に加担しないよう行動する必要がある。

(台北)― 中国政府が2020年6月30日に香港に厳しい国家安全維持法を施行して以降、香港での学問の自由は著しく衰退していると、ヒューマン・ライツ・ウォッチと香港民主委員会(Hong Kong Democracy Council)は本日発表した報告書で述べた。

今回の報告書『「私たちはもはや真実を記せない」: 国家安全維持法下の香港での学問の自由』(全80ページ)は、長年守られてきた表現・集会・結社の自由などの市民的自由が、香港の公立8大学で抑圧されていることを明らかにした。大学当局が抑圧を強めるなかで、学生や教員は広く自主検閲を行うようになっている。教室やキャンパスでの言動を理由に嫌がらせや報復を受けるだけでなく、訴追すらされかねないからだ。

「学問の自由に慣れ親しんできた学生や教授陣は今や、講義や研究、出版の内容はおろか、学術交流の相手すらも、報復を避けるために慎重に選ばなければならなくなっている」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチの中国局長代理である王松蓮(マヤ・ワン)は指摘する。「中国政府は香港の大学へのイデオロギー統制を最優先事項と考えており、多くの学生や教員が今やその矢面に立たされている。」

香港の大学執行部は人権侵害をもたらす政策を強行している。大学当局はかつて一大勢力だった学生会に対して8大学すべてで嫌がらせを繰り返しており、学生代表として選出されているこの組織を実質的な活動停止に追い込んでいる。また「民主の壁」と呼ばれた掲示板から張り紙などをすべて撤去し、1989年の天安門事件で中国政府によって虐殺された民主化デモ参加者を追悼する記念碑などをキャンパスから一掃した。

さらに大学当局は平和的なデモや集会を行った学生を処分したほか、学生の出版物ややりとり、イベントの内容を検閲し、大学警備員に公共の場で学生を監視させるなどしている。ヒューマン・ライツ・ウォッチは8大学にメールでコメントを求めたが期限までに返信はなかった。

本報告書は香港の全公立大学8校に所属する教員25人、学生8人へのインタビューと、中国語と英語の報道内容の検証に基づいている。

インタビューに応じた教員や学生の多くが、2020年6月に香港国家安全維持法が施行されて以来、教室での講義、論文の執筆・出版、助成金の申請、会議やイベントでのゲストスピーカーの選定といった場面で日常的に自主検閲を行っていると話した。複数の教員が大学当局や学術出版社から学術論文について直接的な検閲を受けたことがあると述べた。ある男性教員は、2019年の抗議活動中に制作されたアート作品を論じた学術論文を書いたことで大学から香港警察に通報されたと証言した。

中国政府の統制下にある新聞は、民主派と見なされる複数の教員を標的にし、その評判を損ない、プライバシーを侵害し、逮捕をほのめかす脅迫・中傷キャンペーンを張っている。香港の移民局は外国人教員へのビザの発給を拒むほか、延長や更新を認めない。大学は民主派と見なされた教員を解雇したり、テニュア(終身在職権)を取り上げたり、曖昧な理由で契約更新を拒否したりしている。身の安全を心配し、香港の政治環境に懸念を抱いたことで、ひっそりと職を辞して出国した教員もいる。

国家安全維持法が学生や教員に与える影響は、当人の地位、研究分野、大学での立場のほか、中国政府との力関係によって変わってくる。 香港出身であったり、民主派と見なされたり、香港と中国の社会政治問題を研究していたりすれば、こうした圧力に強くさらされる。

香港政府は国家安全維持法と、2024年3月に成立した第2の国家安全維持法である「国家安全維持条例」をただちに廃止すべきである。また、平和的に基本的人権を行使したことを理由に恣意的に拘禁されている人びとを、逮捕・投獄された学生や教員を含めて全員釈放すべきである。

関係国政府、および香港の大学と提携関係を持つ海外の大学は、脅迫にさらされている提携先の教員や学生のために声を上げるとともに、提携関係の中身を定期的に見直し、人権侵害に加担しないよう行動する必要がある。

「香港での学問の自由の衰退は世界に悪影響を及ぼしている。香港の大学は長年にわたって中国に関する世界へのきわめて重要な窓口であったし、その逆の役割も果たしてきたからだ」と、香港民主委員会のエグゼクティブディレクターである郭鳳儀(Anna Kwok)は述べた。「香港の大学と共同プログラムを持つ政府および大学には、そのプログラムを精査し、そこで行われている学問研究が中国政府による学問の自由への攻撃によって操作や統制を受けないものにすることが求められている。」

報告書からの引用:

香港大学学生連合は反中国という邪悪な道を歩み、香港に混乱の種をまいてきたことでかねてより悪名高い。特に国家安全維持法が施行されてからは(…)、学生連合は狡猾なやりかたで(…)依然として確信犯的に反動的な思想を広めており、より多くの学生を海賊船に誘い込み、大学を犯罪の戦車に縛りつけようとしている(…)。こうした輩は学生などではない。キャンパスに潜むならず者だ。

—『人民日報』社説「悪性腫瘍たる香港大学学生連合を排除し、平穏なキャンパスを回復しよう」2021年4月19日

大学当局と学部長は(…)学問の自由を非常に狭く定義しました。そして学生に行動を促すものでない限りは何を教えようと構わないと言ってきました(…)。でも、例えば教室で民主主義に関することを教えているとしますよね。授業に出ていた学生たちが公共の場に出て行ってアート作品を投稿したり、集会を開いたりするかどうかなんて予測できるわけがないでしょう(…)。つまり、学生が教室で学んだことを実践したとたん、法律違反の教唆が疑われかねない。そうして自らの身が危うくなりかねないのです。

—大学教員F氏(2022年10月28日)

国安法ホットライン(が設置された)後、教員の誰もが気になっていることがあります。もし学生に授業の単位を認めないとか、提出課題の出来がよくないので低い評価をつけたとして、(自分に)何か悪い影響があるかもしれない、ということです。 以前なら学生は通常の手段をとります。評価に不服があると申し立てたり、授業アンケートで教員に低い評価をつけたり、です。しかし、ホットラインが設置されてからは、誰もがこう考えるようになりました。もし学生を落としたら通報されるんじゃないのかとね。

-大学教員T氏(2024年5月17日)

土壇場になって、学部長から「今はまだ危険すぎる」と言われたから出版できないと編集者から告げられました。その編集者は編集部を危険にさらしたくなかったのです。後日、(学部長から)聞かされたところでは、学部長には連絡弁公室から連日(…)メールやメッセージがあったと(…)。中央政府駐香港連絡弁公室の圧力で私の論文の掲載が見送られたことは明らかです。

-大学教員A氏(2022年10月23日)

私たちにとって、国安法の脅威(…)よりも重要なのは、教員の評価方法の仕組みが変えられたことです。そうした重要な評価を行う際にどのような専門家が関わるのか、その人物はどこの人間なのかという問題です。つまり、ゲームのやり方を変えることで(…)、普段から率直な意見を述べる人たちに対して、ここでは歓迎されていないことを思い知らせようというわけです。

-大学教員R氏(2023年6月8日)

(当局は)国家安全保障局(国家安全維持公署)なしでも嫌がらせができます。法律を使うまでもない。共産党のメディアで人びとを名指しすればいいのです(…)。これまでも、複数の大学に所属する複数の研究者を名指しで直接批判する社説がいくつも出ていますが(…)、批判された人は皆すぐに大学を去っています。その中には知人もいました。大学を辞めたのはそれが相当なダメージだからです。さらに攻撃が加えられて、自分の身に何が起きるかわかりませんからね(…)。(こうやって)ある雰囲気が作りだされているのです(…)。もし辞めなければ、厄介なことになるのではないのかと思わせるのです。あるいは、今回は自分が標的ではないけれども、次はその番ではないのかと思わせる(…)。もし怖くなれば辞めてしまうし、辞めずにいたとしても、次に自分が標的になることを恐れて、脳内に(自主検閲の)壁を築いてしまうのです。

-大学教員L氏(2022年11月3日)

 

 

皆様のあたたかなご支援で、世界各地の人権を守る活動を続けることができます。

タグ
テーマ