文部科学省におかれましては、国のいじめ防止等のための基本的な指針の改訂に関して意見提出を行う機会を設けていただき、感謝申し上げます。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは独立した国際NGOであり、世界90カ国以上で人権問題に関する調査とアドボカシー活動を展開しています。日本の人権状況に関する報告書を初めて刊行したのは1995年であり、その後2009年に東京事務所を開設しました。2015年には日本の学校でのLGBT生徒へのいじめに関する6カ月の調査を実施いたしました。
その成果は2016年に報告書『出る杭は打たれる:日本の学校におけるLGBT生徒へのいじめと排除』として刊行しています。
調査の結果、日本の学校に通うLGBT生徒は他の生徒および教職員から暴力や言葉による虐待、ハラスメント、度重なる侮辱を受けていることが明らかになりました。日本の学校現場はLGBTを差別する憎悪表現がほぼ至るところに存在しており、LGBT生徒は押し黙り、自らを呪い、ときには自傷行為にすら及んでいます。日本のLGBTの子どもたちが恥とスティグマにさいなまれている事態です。
教員の間にはLGBTに固有のいじめに対応する十分な準備がない実態も私どもの調査で明らかになりました。よって、個々の教員やそれぞれの学校が性的指向や性自認を理由とするいじめからの保護を求める生徒を支援しようとしても、不十分な対応に留まる可能性があります。教員たちのLGBTにまつわる問題の理解が十分でなく、LGBTの子どもならではの傷つきやすさを心得ていない場合が多いからです。いじめ防止基本方針においてそうしたLGBT生徒のニーズと傷つきやすさを明記することとあわせて、教職員に対して適切な研修、リソース、情報へのアクセスを認めれば、こうした状況は変わると考えます。
私どもは貴省への提言で、いじめ防止対策推進法に基づく2016年の見直しプロセスの一環として、LGBT生徒など弱い立場の生徒のカテゴリーを特定・明記することを提言して参りました。私どもは貴省が、いじめ防止等のための基本的な方針の改訂案(平成29年2月7日)において「性同一性障害や性的指向・性自認について、教職員への正しい理解の促進や、学校として必要な対応について周知する」と明記されたことを歓迎いたします。貴省におかれましては、この文言を維持されますことを私どもとして強く期待します。
文部科学省は性的マイノリティの生徒の教育に関わる人権分野で日本の最前線に立ってこられました。2015年には全国の教育委員会等に向けて「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について」(平成 27 年 4 月 30 日児童生徒課長通知)を示し、トランスジェンダーの生徒に対する場面ごとの支援例を複数示すとともに「性的指向」について言及しています。2016年発行の手引き「性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について(教職員向け)」にはLGBTの権利に関する進んだ見解が示されているとともに、LGBTの生徒を守るための対応が勧告されています。
いじめの防止等のための基本方針の改訂にあたり「性的指向と性自認」を特定・明記したことは、日本政府に国際人権基準上の義務に則った政策遂行の機会をもたらすことになります。日本は国連人権理事会において、性的指向と性自認を理由とする暴力や差別に反対する最近の2つの決議に賛成しており、2016年の国連教育科学文化機関(UNESCO)国際閣僚レベル会合(IMM)―性的指向と性自認/表現を理由とした暴力に対する教育セクターの対応―の共同チェアも務めました。貴省におかれましては、改訂基本方針に「性的指向と性自認」を特定・明記して、日本の子どもたち全員に教育を保障するというこれまでの取り組みを継続されることを私どもとしても強く望む次第です。