(ニューヨーク)− ベトナムのブロガーおよび人権活動家は暴行、脅迫、威嚇行為にさらされていると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書内で述べた。ベトナム政府はすべての攻撃をやめるよう命じ、加害者の責任を問わなければならない。ドナー国の政府はベトナム当局に対し、弾圧を止めるよう、そしてインターネットの自由や、平和的な言論・行動の制圧には代償が伴うことを伝える必要がある。
本報告書「もはや人権活動家が住める国ではない:ベトナムのブロガーおよび民主化運動家に対する暴行」(全65ページ)は、2015年1月〜2017年4月に、平服姿の正体不明の男たちが権利運動家およびブロガーを暴行した36の事件に注目したもの。被害者の大半は重傷を負った。また、事件発生当時に制服姿の警官が近くにいながら、何もしなかったと被害者の多くが証言している。
ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局局長ブラッド・アダムズは、「ベトナムの活動家たちは、ただでさえ自由な発言で投獄されるリスクを負っているのに、今や基本的な権利を行使しようとするだけで、身の安全が脅かされる日々を送っている」と述べる。「ベトナム政府は、こうした行動を断じて許さず、権利運動家に対する暴力キャンペーンに終止符を打つと明言する必要がある。」
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ハノイやホーチミン、ダナン、ニャチャン、ブンタウ、ならびにクアンビン省、ゲアン省、ハティン省、 ビンズオン省、ラムドン省、バグザン省などを含むベトナム全土で、ブロガーや権利活動家に暴行を加える戦略を調査・検証してきた。
多くの場合、こうした事件は路上など、公衆の面前で起きている。たとえば2016年7月に、ハノイのNo-Uフットボールクラブとのイベントからの帰宅途中に襲われた環境活動家La Viet Dung氏のケースなどだ。氏は正体不明の男たちにレンガで襲撃され、頭蓋骨を骨折するけがを負った。
2014年5月には、権利活動家のTran Thi Nga氏が鉄棒を持った正体不明の男たちにハノイの路上で襲われ、右膝と左腕を骨折している。暴行は、カフェといった公共の場でも発生している。2016年6月、正体不明の男がダナンのカフェで、民主化運動家のNguyen Van Thanh氏の顔をなぐる事件が起きた。警察官は現場に到着すると、暴行の捜査をするのではなく、同氏の身柄を数時間にわたり拘束。彼の政治的な記事について尋問を行った。
そのほかのケースでは、正体不明の男たちが活動家らを車やバンに連れ込んで暴行し、荒廃した地域に置き去りにした。たとえば2017年4月に、外科用マスクをつけた平服姿の男の一団が、バドン(クアンビン州)の権利活動家のHuynh Thanh Phat氏とTran Hoang Phuc氏をバンに押し込んで走り去った。車内で男たちはベルトと棒を使って両氏を殴り、その後森に置き去りにした。2017年2月にも同じくバドンで、平服姿の男の一団が権利活動家のNguyen Trung Ton氏と友人のNguyen Viet Tu氏をバンに押し込み走り去った。服を脱がされた両氏は自らのジャケットで頭を覆われ、鉄の棒で殴られたあと森に置き去りにされた。Nguyen Trung Ton氏は複数のけがを負い、病院で手術を受けた。
前出のアダムズ局長は、「暴漢が白昼堂々と活動家を誘拐してバンに押し込み、暴行を加えたという事実は、活動家が迫害される結果につながっている不処罰の証にほかならない」と指摘する。「ベトナム政府は、こうした暴力的な攻撃に対する寛容がもたらすのは、同国が目指していると主張する社会的秩序や安定ではなく、無法と混乱であることを知るべきだ。」
活動家たちはまた、環境保護のための抗議集会や、仲間の活動家の解放を求める集会、人権関連イベントといった公の行事に参加した後にも暴行を受けている。2015年12月、権利運動家のNguyen Van Dai氏はナムダン地区(ゲアン省)の教区で人権と憲法について講演した。その後同氏と3人の活動家仲間がその地域から去る際に、外科用マスクを着用した男の一団がタクシーを止め、車から同氏らを引きずりおろして暴行した。
元政治囚の家を訪問したり、政治囚の出所を歓迎して連帯を表明する行為でさえ、活動家に対する暴力につながることがある。2015年8月には、Tran Thi Nga氏、Chu Manh Son氏、Truong Minh Tam氏、Le Thi Huong氏、Phan Van Khanh氏、およびLe Dinh Luong氏といったブロガーおよび活動家の一団が、元政治活動家のTran Minh Nhat氏に会うためラムドン省を訪ねた。Tran Minh Nhat氏は、禁じられている海外の政党と連携した罪を問われ、4年間の刑期に服した後に釈放されたばかりだった。一団が複数のバスに分かれて帰る際に、正体不明の平服姿の男たちがそれぞれのバスに乗り込んできて、活動家たちを引きずりおろすと、公衆の面前で暴行した。
本報告書に含まれるケースのうち1件を除くすべてにおいて、被害者の大半が被害を警察に届け出ているにもかかわらず、加害者は1人も身柄を明らかにされたうえで訴追されていない。それどころか、活動家のNguyen Van Dai氏やTran Thi Nga氏といった一部の被害者は、刑法第88条の「国家に対するプロパガンダ行為」の疑いで逮捕・訴追されている。明らかに受動的な犯罪の容認から、積極的な協力まで、一連の事件における当局と加害者の関係についての疑問が浮かび上がるゆえんだ。
本報告書は、ラジオ・フリー・アジア、ボイス・オブ・アメリカ、BBC、Saigon Broadcasting Television Networkなどの海外メディア、FacebookやYouTubeなどのソーシャルメディア、Dan Lam Bao(市民ジャーナリズム)、Dan Luan(市民討論)、Viet Nam Thoi Bao(ベトナム・タイムズ)、Tin Mung Cho Nguoi Ngheo(貧困層のためのグッドニュース)、Defend the Defendersなどの独立系ウェブサイト、および複数の個人ブログなどが報じた事件を参考にしている。本報告書に含まれた暴行事件の大半が、英語で報道されておらず、またベトナム国営メディアでも同じく報じられていない。
前出のアダムズ局長は、「メディアへの国家検閲のため、多くの平和的な批評家がオンラインで懸念を表明している」と述べる。「ブロガーや活動家に対する攻撃パターンは、政府批判を抑え込む意図を明らかにするものだ。批評家たちが正当な懸念を表明する場は、インターネット上にしかないことがほとんどだ。」
暴行事件記録の最近の増加は、ベトナムが環太平洋パートナーシップ協定への参加をめぐり米国と交渉していた際に、政治的な動機に基づく逮捕数が一時的に減少していた時期と重なる。ベトナムの人権状況は、協定交渉および米議会における議論の主要課題だった。ベトナム政府が政治的な逮捕・裁判の減少を対外的に示す裏側で、反対意見の取り締まりを継続するために、この様なかたちが取られた可能性も十分にある。皮肉なことに、Tran Minh Nhat氏やNguyen Dinh Cuong氏、Chu Manh Son氏、Mai Thi Dun氏など、暴行の被害者の多くは元政治囚だ。しかしながら近ごろは、逮捕数の新たな急増と同時に、活動家への暴行も続いていることを示す証拠がある。
アダムズ局長は、「勇敢な活動家やブロガーたちは、日々迫害に苦しんでいるのに、決してあきらめていない」と述べる。「ベトナムの国際ドナーおよび貿易相手国は、これらの人びとの側に立つべきだ。ベトナム政府に対して、暴行を止め、加害者の責任を問うよう強く求めていかなければならない。」